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街道の趣 どう守る

江戸期から昭和初期の古民家が残る広島市安佐北区可部地区の旧雲石街道一帯の景観保全が曲がり角を迎えている。出雲、石見両街道が合流する交通の要衝として栄えた往時の町家は改修費がネックとなり、空き家になったり解体されたりして景観は年々変化する。
情緒ある通りを守るためには地域全体の機運の高まりが欠かせない。

JR可部駅から北へ約600メートル。かつては人通りでにぎわった同街道の「折り目」は日中、国道183号線の抜け道としてひっきりなしに車が行き交う。昔のたたずまいが年々失われる中、江戸時代から続く入江呉服店の一角が8月下旬、カフェサロンに生まれ変わった。
「古民家が取り壊され、町の趣を失っていく流れに一石を投じたかった」と同店代表の入江乙彦さん(72)。町家の特徴である卯建を修繕し、店内は天井を剥いで木組みの梁を見せるよう改修。古民家の風情を生かしたカフェに改修し、コンサートも毎月開く。

街道沿いの古民家の保全活動に取り組む住民グループ「可部夢街道まちづくりの会」によると、昭和初期には「折り目」を中心にした南北1.5キロに計281軒があったとみられる。しかし、2004年の調査では江戸から昭和初期に建てられた古民家は50軒に。15年3月には37軒に減った。多くが取り壊され、鉄骨建て住宅やアパート、駐車場に姿を変えた。
住民も手をこまねいていたわけではない。まちづくりの会は10年、沿道の14自治会・町内会に呼び掛けて景観保全のための実行委員会を結成。家屋の新築・改修時に切り妻屋根や格子窓を採用することや木製の郵便受けの設置など、住民が自主的に取り組む約40項目のガイドラインを示した。ただ、一定の成果はあったものの、街道全体では思うような効果が出ていない。

最大の壁は古民家の改修費だ。まちづくりの会が古民家の所有者に意識調査をしたところ、「解体せずに古民家の風情を残してリフォームしたいが、経済的な負担が大きい」との声が多かった。このため、昨年6月、市に要望書を初めて提出。改修の補助金や空き家バンクの創設を求めた。
これに対し、市は町並み保全の気運がさらに盛り上がることを前提に「補助金制度を含めた支援の在り方を検討したい」と答えた。まちづくりの会の梶川暢之会長(82)は「期待した即効性のある返答ではなかった。時間をかけているうちに、どんどん古民家が減ってしまう」と嘆く。
まちづくりの会は毎年、街道沿いの古民家や商家約30~40カ所を開放し、餅つきや琴の演奏会を開くイベント「可部の町めぐり」を開催するなど、人の呼び込みには一定の成果を上げてきた。ただ一方で、古民家の所有者の世代交代が進む中、景観保全に向けた地域の動きは盛上がりに欠けている面も否めない。
可部地区は戦後、大型店の進出や住宅団地の開発が進んだ一方、昔の面影を残す街道の景観は高い評価を受けている。住民が話し合う場を設けて地域の財産を見つめ直し、景観保全の気運を高めて行政を巻き込んだ取り組みにしていけるか。地域の底力が問われている。
【中国新聞 2016.10.06】

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「折り目」付近の風景。伝統的な建物が残る一方、下のように取り壊され撤去された旧家も見られる。(2014年撮影)
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可部地区の町並は、「可部の町めぐり」開催時をはじめ何度も訪ねているが、古い建物が年々少なくなっていることに私も危惧を抱いている。
自治体による古い建物の保全に対する補助。これは規模や形は自治体により様々だろうが、補助が行われている例は地方の小都市に至るまであちこちで眼にする。
市はそのような事例に携わった実績もなく、曖昧な返答しかできなかったのだろう。古い町並といえるのはこの可部地区くらいしかないからだ。

記事にあるように、イベントは古い町並・旧家の知名度を上げるには有効だ。しかし、では実際伝統的建物の保持という具体的な話になると、公の補助がなければ各家の持主の判断に任せるほかない。残さねばならないという思いはあっても、経済的その他の理由で個人が行える範囲は非常に限られている。
早く公費補助が受けることができる日が来ることを祈りたい。

例年10月に行われる「可部の町めぐり」は、今年も16日(日)に予定されている。
http://www.kominka-hiroshima.org/1644

by mago_emon2 | 2016-10-08 15:43 | 古い町並  

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